第298号 老人クラブ
| 第298号 老人クラブ |
writer:小 谷 野 一 彦
我が家は87歳になる母を筆頭に今年還暦を迎えた夫婦の3人で暮らしている。夫婦とも現役で働いてはいるが、ひと昔前であれば入会できたであろう地域の『老人クラブ』状態の家族である。先日、帰宅すると要支援でもない母が「チョット聞いて!私、本当にボケたみたい!」と、すがるような感じで駆け寄ってきた。夕方になり洗濯物を取り込もうとした時に干されていない・・・まさか盗まれたかと思ったが洗濯機を覗くと洗い終わったままの状態で洗濯物が入っていたとの事・・・。

つまりは、干すことを忘れたことに大ショックを受けていた。妻と私は「そんな事よくあることだし!ボケてないから大丈夫!」と優しく慰めたつもりだったが母からはこんな言葉を返された「あんたらがさ~そうやって怒らず優しくするもんで私の物忘れが治らんだにっ!もっと厳しくせんと物忘れ治らんっ!反省できんじゃん!」・・・なんのこっちゃである。失敗や物忘れぐらいで、まさかこんな事を言われるとは!と思ってもいなかったが数日後・・・なるほど!と感じる出来事があった。いとこがジュースを手土産に遊びに来たので皆でそのジュースをいただこうという事になった。母が蓋を開けづらそうにしていたので私が開けてあげようとしたところ、いとこから「甘やかしてはダメっ!自分のことは自分でさせんと、どんどん出来んくなるよ!少しは時間かかるかもしれんけど自分のことは自分でさせること!」勢いのある言い方でビックリしたが、改めて過剰な手助けや優しさは却ってボケを早まらせる可能性あるのだと感じ、母は冗談のつもりだったのか分からないが「怒らんもんで私はダメになる!」に繋がるモノがあると感じた。
因みに妻の父母は健在で義父は認知症になっているようだが同居の義姉によると「お母さんはお父さんにすっごい厳しくてさ~スパルタじゃんね~!」との事。さっそく義母に我が家に起こった出来事を話し「我々はお母さんのスパルタを指示します!」と宣言した!孫が食べ物をこぼすと躾(しつけ)と思い嫌われない程度に叱るが、上手くできた時は頭ナデナデ頬をスリスリして褒めている。しかし母親に同じ接し方は出来ないので、困ったもんである。怒る、怒らないは別として自分で出来そうな事は無理に取り上げずにやらせて自信を失わせないようにしながら『楽しい老人クラブ』にしていきたいと思う。
さて、話は変わるが今年の5月に『還暦旅行』を妻と企画した。九州から約一週間かけ色々な名所を車でめぐりながらフェリーに乗ったり電車に乗ったり乗馬に挑戦したりと細かく旅程を立てた。宿は人生一度の還暦旅行なので少し奮発してワンランク上の旅館を予約し、いざ出発!一日目、二日目と楽しくリラックスした旅は進んでいったが三日目あたりから夜の食事に気が重く感ずるようになった。地の物を使い美味しく味付けされた料理、こだわりの皿に美しく盛り付けられた料理、どれも食欲をそそる料理のはずなのだが我々の胃袋サイズにどうにも合わない…最初は頑張れば後は胃も広がり慣れてくるかとも思っていたがそれも期待できなかった。仲居さんやチェックインの時、食事量を減らしてもらえるようお願いもするが「残していただいても構いませんから食べられるだけ楽しんでください!」とのご返答。しかし、いざ食事場所まで行くと「ご飯のおかわりいかがですか?」「余ったご飯は、おにぎりにしますので夜食でお召し上がりください♪」心のこもった『おもてなし』と感じるので益々気が重くなる。旅行の醍醐味である食べ歩き観光は夜に備えて止めた・・・楽しい旅行なのか苦行なのか(笑)そして今回の旅行で気付いたことがあった。それはソコソコの年になり、それなりに職場で偉そうにしていられる立場でもあるため指示されることに自分は慣れていなかったのである。車を運転していると妻は指示を出す。「そこ曲がって!」「危ないっ!気を付けて!」その度にイラッ!と・・・あれっ?俺は妻の後ろを黙ってついてく事が趣味だったはずなのに・・・新しい発見から今後の生活を改めて考えさせられる還暦旅行であった。


