【三和新聞】157号

2014-01-01
 第157号 まな板の鯉
writer:  広田光男

あけましておめでとうございます♪新しい年が明るく楽しい年になりますように。まずは健康第一!何事も健康でなければ楽しくない!と、ご挨拶したところで・・・さて『頚動脈狭窄症』この病名をご存知だろうか?首の両側に脳に血液を送る太い血管が走っている。そこにコレステロール等が溜まって脳への血流に支障をきたす病気だ。自覚症状は無かったが、超音波検査やMRI検査で調べると右頚動脈がほとんど詰まった状態だ。医者から「早く手術したほうがいいですよ!」と勧められ手術をした。右脚付け根の動脈から頚動脈までステント(人工血管)を挿入するカテーテル手術である。手術前日の夕方担当医が「体調、ご気分はどうですか?手術は明日9時半から3時間位かかります。」と病室に様子を見に来た。そして「右脚の付け根から手術しますので、股間の毛を剃っておいて下さい。看護師に剃ってもらってもいいですよ。」と言われたが「・・・いえ、自分で剃ります。」と売店でひげ剃りを買い、病院内の風呂場へ行った。風呂の制限時間は30分だ。早速陰毛剃りを始めたが顔のひげ剃りのようにうまくはいかない。だんだん要領を得て来たころには制限時間になっていたので右側だけ剃って風呂を出た・・・。

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手術日の朝9時前、部屋に女性看護師2人が来た。1人はベテランのようだがもう1人は若く看護師になりたてのようで白衣も初々しい。「おはようございます!今から手術着に着替えてもらいますのでハダカになってください。」と言われ、女性2人の前でチョット恥ずかしかったが裸になった。「広田さん!全部剃ってないじゃないの!」「だって右側が剃ってあればいいでしょ!」「ダメダメ!右側に問題があれば左になることもあるの、○○さんすぐに用意して剃ってあげて!」とベテランが若い方に指示したが、断って自分で剃った。剃りが終わると、今度は「尿管を入れます、(排尿のため、ゴムのチューブを膀胱まで差し込む)仰向けに寝て下さい!○○さん出来る?」と若い方に聞く。「出来ると思います、やってみます!」・・・おいおい大丈夫か?出来るのか?ベッドの脇の床に膝を付いた姿勢でぎこちない手付きで始めた。先端を持って差し込んでゆく。「痛っ!」「ごめんなさい!」「痛っ!」「ごめんなさい!」と繰り返すが7~8センチ以上進まない。「広田さん、前立腺肥大とか言われてないですか?」と言いながら繰り返すが進まない。ベテランが見かねて「私がやるから!」と始めたらスグに入った。「これは角度があるの、角度変えながら入れるのよ。」と若い方に教える。さすがベテラン腕がいい、我々の『ものづくり』と同じだ。腕が良くなくてはダメだ。

点滴と排尿の袋をぶら下げて車椅子で手術室へ運ばれる。ドアが開くとワインレッドのウェアを着た女性看護師2人が居た。「○○と○○です、担当させていただきますので宜しくお願いします。」と胸の名札を見せながら丁寧な言葉で迎えてくれたが、キャップとマスクでどんな顔の女性かよくわからない。次のドアが開くとCT撮影機、照明の下の手術台、大きなモニターが6面、手術着を着た医師5人、皆キャップにマスク、更にはゴーグルのような保護メガネで表情が全く判らない。なんでこんなに大勢居るの?!異様な雰囲気にビックリ!後でわかったのだが1人は助手、3人は見習いでカテーテル手術の勉強の為だった。これも『ものづくり』と一緒で【技術の伝承】が大切だ。戸惑いながら手術台に寝かされてハダカにされる。筋骨たくましい体ならいいが、やせ細った爺さんの姿は恥ずかしい。看護師が「広田さん、頭と腕と足を固定させてもらいます。」と言いながらバンドやテープで手術台に固定する。優しく言いながら、やることは結構荒っぽい。しっかり固定されて全く身動きがとれない。言い知れぬ不安感だ。大きな地震が起きてみんな逃げてしまったらどうしよう?もしかしてSMの世界では、こうやって動けなくされるのも快感になるのだろうか?・・・色々なことを考える。

鼻に酸素のチューブ、脈拍、心電図のコード、血圧計と手際よく付けてゆく。モニターに頭の血管が映し出され心臓の鼓動、脈拍、血圧等の数値が点滅している。頭が動かせないので良く見えないが、緊張で胸のドキドキが早くなる。それを察してか看護師が「広田さん、痛いとこないですか、痒いとこないですか?なんでも私がやりますから我慢しないで言ってくださいね、体は動かないでくださいね!」とマスクの顔を私の耳元に近づけて優しく言ってくれるのだが、この看護師さんどんな顔で年は幾つぐらいだろう?と思いつつも(早く下半身に何か掛けてくれ!)と思ったら体全体に大きなシートみたいなものを掛けられた。準備は終わったようだ。担当医が「広田さん、今から始めます。必ずうまくいきますから安心してください。痛いとか何かあったら声を出して下さいね。」

外科手術は医師の技能、技術、腕の良い悪いで結果が大きく違ってくる。我々の『ものづくり』と全く同じだ。手術を受けるなら優秀なゴットハンドであって欲しい。「脚の付け根に麻酔注射をします、ちょっと痛いですよ!」と始まった。もうこうなったら医者に任せるしかない!身動き出来ないこの身はまさに『まな板の鯉』だ。手術の最中見習いに症状や状況を説明する担当医の言葉に聞き耳を立てていたが「広田さん、うまくいきましたよ、終わりですよ、お疲れ様でした!」という言葉に緊張も解けて心底安堵した。ゴットハンドによって1つ障害が除かれた。さあ~!楽しい新年になるようにがんばるぞ。感謝!

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