【三和新聞】193号

2017-01-31
第193号 『永遠の・・・』
writer: 神谷 敏紀

久々ドッピューンのトシちゃん登場でーす♪今回は主演 岡田准一、主題歌 サザンオールスターズ『蛍』2014年に全国スクリーンで公開された『永遠の0』・・・私は3回スクリーンに足を運んで観るたびに・・・泣いた。現在、単行本を読み返し5回目に突入!何度読み返しても・・・泣ける。私の生まれは沖縄の糸満。太平洋戦争の激戦地である。祖母や母から戦争体験談を幼き頃から聞かされた。少し怖い話になるが祖母は首元を、母はお腹を銃弾が貫通したが、幸いに急所を外れていたため命からがら生き延びる事ができたという・・・壮絶な時代の事象を聞かされていたのだ。

さて『永遠の0』の物語は、主人公の健太郎とその姉 慶子の祖母が亡くなったことから始まる。今まで慕っていた祖父は、祖母の死をキッカケに自分が実の祖父ではないということを明かす。そして実の祖父は戦争で亡くなったと打ち明けるのだ。死んだ実の祖父がどんな人だったのか?その疑問を解消するため健太郎と慶子は調査を始めたのだった。祖父の実の名は宮部久蔵。15歳で海兵団に入団。毎晩鍛錬に努め、機体整備にも気を遣い、巧みな操縦技術を持つ航空兵であったが実戦においては無謀に撃墜することより撃墜されないことに重きを置いた。こうした命を重んじる思考から上官に意見する事もあり『臆病者』と称された。下の者へも丁寧に話す様は馬鹿にされるほどであったが、教官としては非常に厳しくも暴力に訴えることは一切なかった。また妻子を常に案じ「必ず生きて帰る」と公言していた。真珠湾攻撃では空母『赤城(あかぎ)』の戦闘機パイロットとして参加。ミッドウェー海戦での赤城喪失後はラバウル海軍航空隊に配属され一度内地へ帰還。筑波海軍航空隊で教官を務めた後、特攻隊に自ら志願。鹿屋(かのや)海軍航空隊の鹿屋飛行場より出撃し、米空母『タイコンデロガ』に突入し・・・未帰還となる。享年26。甲板に特攻したが不発に終わってしまった。米兵は久蔵の遺体を侮辱していたが、その遺体から妻子の写真を発見すると心中を察し、彼を海底へと丁重に葬った・・・。

本を読み終えて私が理解したのは戦争の背景とその儚さである。戦争の背景には色々な思いが詰め込まれているということも知った。そして注目すべきは戦争で亡くなった久蔵の心情の変化だろう。健太郎と慶子が調べていくうちに久蔵の実態が明らかになっていくが、ポイントは次の2つ。ひとつは久蔵が『臆病者』と呼ばれていたこと。次にそんな臆病者である久蔵が自ら『十死零生-じゅっし(じっし)・れいしょう(れいせい)』と言われる特攻隊に志願したこと。臆病者というと印象が悪いかもしれないが、久蔵は命を何よりも大切にしていたのだ。そんな久蔵が自ら特攻隊に志願する心情の変化とは一体どういったものなのか?残念ながらその答えは文中でハッキリしたものは無かったのだが、その心情の変化に私は心打たれたのである。

気になったのは、本のタイトルである『永遠の0』・・・結局、本を読み終えてもそのタイトルの意味を見出すことが出来なかった。私は考えた。零戦のゼロ?十死零生のゼロ?そして、更なる『永遠の』という言葉が腑に落ちない。考えれば考えるほど解らなくなる。答えが出ないので再度、亡くなった久蔵の心情について考えてみた。亡くなった人の心情を知り得ることは出来ないが、私なりに考えて読み取った心情は次のとおりだ。久蔵は何よりも家族を大切に想い、家族に会えるための『自分の命』を大切にしていた。しかし戦争という境遇に立たされ仲間の死、戦争で亡くなっていく人々の死をたくさん目の当たりにしてきた。久蔵は仲間の無念を受け継ぐことになるが、それを一人で抱え込んだまま生活をするのが苦しかったのだろう。そして耐え切れなくなった。生きることに執念を燃やしていた久蔵であっても、戦争はそれを打ち砕く。戦争で得られるものは何も無い。つくづくそう感じさせられた。戦争を繰り返しても得られるものは永遠に無い。つまり『永遠のゼロ』・・・そう捉えることが出来るのではないだろうか。

また『0』という文字は円を書くことになるので始まりも終わりも一緒になる。仏教では『輪廻転生』という言葉があるように、人は死しても何らかの形で現代に戻ってくるという考えがある。もしかしたら久蔵は現世に区切りをつけ、来世で生きていくと覚悟したのかもしれない。そういった意味でも『永遠の0』というタイトルが当てはまるのかも・・・。歴史は繰り返すと云われるが戦争は絶対に繰り返してはいけない。『永遠のゼロ』にしなければならないのだ!そのために私たちが大切にしなければならない事がある。それは戦争という事実が過去にあったということを忘れないこと。過去の事実を認識し2度とこのような事を繰り返さないこと。そして、この事実を後世に引き継ぐこと。人は何のために生きて、何のために死ぬのか?『永遠の0』は、それらを考えさせられる作品である―――。

 

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