【三和新聞】143号

2012-11-01
第143号 絆
writer:小谷野 一彦

日本人が決して忘れない・・・あの【3月11日】決して忘れていないのだが・・・。

11月【第143号】 絆

地震発生直後、宮城にある協力メーカーK社の社長に電話を掛け「結構揺れたけど皆無事だから大丈夫!」との事。安心して仕事へ戻りネットの地震情報を確認すると、今度は津波情報が出ていた。もっと詳しくと思い、食堂のテレビをつけると・・・驚いた・・・これは本当に現実か?そして、海辺に近いK社は大丈夫なのか?再び電話をとり数回の呼び出しの後、奇跡的に繋がった「もしもし!」「よかった!生きている!」しかし状況を聞くと「駄目だ!生きているけど会社は壊滅だ!」地震直後の電話から、たった30分だった・・・。幸いにもK社の従業員は全員無事だった事もあり、宮城県の中ではいち早く会社を再開し、今も、もの作りメーカーとして営業を続けている・・・。

今年の3月、その社長と長野県で再会し、最近の状況やくだらないおっさん話など楽しい酒で盛り上がり、勢いづいて2軒目のスナックへと流れていった。スナックにはHipHop系のお兄ちゃん4人組と我々おっさん3人のみ。お兄ちゃん達とは何の共通点もなくカラオケに興じていたら、突然店のママがお兄ちゃん達に「ちょっとアンタ達!この人はね、震災で会社が壊滅したのに、再建して頑張っている人なんだよ!ちょっと話を聞きなさい!」めんどくさそうな顔をしつつ、まぁ馴染みのママがいうならと、我々の席へと合流してきた。お互い相当酔っ払ってはいたが、社長が話すマスコミが流さない被災地の実態の話を聞くと、お兄ちゃんたちは背筋を伸ばし真剣に社長の話に聞き入った。やはりマスコミ情報だけでは、遠い『対岸の火事』のような感覚になり、身近に感じなかったんだな、こいつらも・・・、そして私自身も・・・。

夏休み、海外に行く予定のある娘に、日本人として被災地の実態を見せる必要性を感じた私は、6月に娘を連れて宮城への父娘の二人旅をした・・・。初日はK社へ行き社長の話を直に聞かせることにした。「松林をなぎ倒しながら、壁のように津波は押し寄せたんだよ。」「階段の壁のあそこまで津波が来たんだ!」など、リアルな話に娘は、あのお兄ちゃん達と同じように背筋を伸ばし聞き入っている。やはりリアルな話でより身近に感じているのだろう。その後レンタカーで被災地を巡った・・・。

阿武隈川沿いを走ると、既に瓦礫は撤去されており、密集していた集落に残っているのは家の基礎とコンクリートで固めた駐車場、そしてその脇の花壇には、もの悲しく綺麗に花が咲いていた。娘に見せるために来た被災地ではあったが、リアルな状況を見ると自分にも身近な出来事なのだと強く感じた。2日目は河北ICから北上川沿いに南下し、398号線沿いを走った。北上川の堤防修復工事は随分と進んでいたが、海から10㎞の辺りまで津波が来ていることには驚いた。そして398号線に入りうねった山道を抜け雄勝湾に出たところで娘と二人、絶句した。ひどい、本当にひどい。学校校舎の屋上にまで津波が到達している。いまだ瓦礫が片付けられてないアパート・・・、デジカメを持って車を降り私は、シャッターを切った。初めて訪れた所で知っている人もいないのに悲しく、虚しく、とても苦しい。そんな事を感じながら車に戻ると「よく写真、撮れるね・・・」娘が言った。返す言葉が見つからず、無言のまま再び車を走らせ次の目的地、女川湾へ向かった。

女川の町へ入ると変わった感じの建物があり、よく見ると横倒しになった5階建てのビルであった。改めて津波の圧力のすごさを感じ「なんか凄いな、本当に滅茶苦茶だな・・・」と、やっと娘に声をかけ、そして「何故写真を撮らない?」と聞いてみた。「私が写真撮るのは被災している人から遊んでいるように見えるし、壊れた人の家・・・撮るのは可哀そうじゃん、パパはそう感じないの?」彼女が撮る写真は被災者から見れば、好奇心だけで撮られている類のもので、後ろめたさを感じていたようだ。その言葉で娘の成長を感じつつ、家で話す時や友達に話す時、そして海外留学先で話す時に、よりリアルに伝わるように写真を使って話す事を勧めると、彼女も納得し、理解したのか女川の街を少し写真に収めていた。しかし、被災地の写真は自分もそうだったが、そのリアルさが怖くて撮れないという感じもあった。1年以上もたった今も、そんな怖さが残るほどの大災害なのだと、被災地に足を踏み入れて改めて感じています。福島原発問題や瓦礫処理など、復興施策について直接何か出来るわけでもなく『絆』の言葉もただ眺め、聞き流すだけになっていた自分が、今は見た事や聞いた事を少しは人に伝える事が出来る・・・。大げさではありますが、娘とふたり・・・伝承者として『絆』の一員になれた気がしています。

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