【三和新聞】118号

2010-10-01
第118号 THE 富士登山
writer:広田 光男

富士山5合目駐車場。カラフルな登山ウェアを身に着け登山に向う山ガールや、疲れきった足取りで下山してきた人達、ただ富士山を眺めに来ただけの観光客などであふれかえっている。眼前には7合目、8合目あたりの急斜面が巨大な三角形の壁のように見える。頂上は灰色の雲に隠れて何も見えない。予定では午後2時には登山開始のはずが、駐車場満車の影響で大幅に遅れてしまった。登山のために急遽買い揃えた登山用グッズを身に着けた7人の男、円陣を組んでリーダーから登山前の注意や説明を受けている。歩く順番が決められ、前後の人に気配りしながら追い越し禁止、順番を守って歩くように指示された。先頭を歩くのは今回が4回目の富士登山となる経験豊富なリーダー新妻社長。2番を歩くのは、本当に登れるのか?みんなが心配している70歳の私。3番は、きゃしゃな身体で時々風邪や発熱で体調をこわす杉浦君、実は私は彼が一番途中ダウンの危険があると心配していたのだが・・・。4番を歩くのは、ウオーキングが趣味で富士登山の経験もあり頼りになる佐藤君、リーダーから特に前を歩く二人に注意するよう指示が出た。5番は、メンバーで一番若い鈴木君。ただし忙しさで準備が出来ず、前日会社を休んで準備したらしいが準備不足が心配。6番を歩くのは今回参加を決めてから一番早く準備を始めたこだわりの人、いろいろグッズを買い揃えて見かけは一番サマになっているが登山は全く経験なしの菅沼君。そしてしんがりは自衛隊上がりで演習では富士の裾野を駆け回っていたから任せてくれ!と自信満々の後藤君。この7人で隊列を組んで歩き出したのだが・・・さて、途中落伍者なく全員が富士山の頂上に立って御来光を眺めることが果たして出来るのだろうか・・・。

10月【第142号】 THE 富士登山

今年4月ごろ、社長から富士登山の話を聞いた時に「オレも1度は登ってみたいな~♪」とつぶやいた一言がきっかけとなり、社長が従業員に呼びかけ現実になってしまった。登山が決まって女房に「富士山に登るよ♪」と言ったら「やめなさいよ、あなたの年齢で登れっこないでしょ!途中でダウンしたら他の人に迷惑掛けるんだから!」と強く反対された。「大丈夫だ、自信あるから」「どうしても登るなら今日からウォーキングしなさいよ!」「わかった、そうする!」と言うことで、6月から毎日3キロのウォーキングを続けたことが少しは役立ったように思える。それともうひとつ、NHKテレビ『ためしてガッテン』と言う番組で『疲れないで登山する方法』をやっていた。それによると、(1)ゆっくり歩く。(2)せまい歩幅で歩く。これは至極あたりまえのことだと思う。さらに、これが嬉しい。(3)演歌を歌いながら歩く。ホントかいなと思う。ロックやポップスではなく、演歌でなければ効果は無い、らしい。演歌独特のリズムか何かが疲労防止に役立つ、らしい。番組で一般の参加者がこれらを実行しながら登山した後のコメントがこれまた「ぜんぜん疲れない♪」「今までと全く違う♪」「これならいくらでも歩ける♪」と言うものだった。・・・演歌なら大好きだ。演歌を歌って疲れないなら、五木ひろしや北島三郎を歌っているうちに富士山の頂上についてしまうではないか!こんないいことは無い♪これで楽々富士山に登れる、はずだったが・・・。

隊列を組んで歩き出してみると平坦な道、むしろ下り坂になっている。これでは自然と鼻歌も出てくる快適な歩きだ。しかし、それも6合目までだった。あとは頂上までただひたすら登るのみである。ゆっくりと、歩幅を狭く、演歌を歌いながらと思うが、とんでもない。そんなもの全く受け付けない急勾配だ。ハアハア息を切らして必死で登る。リーダーが気配りしてこまめに休憩を取ってくれる。そのたびに酸素を吸い、水を飲んでは高山病を防ぎながら登って行く・・・とにかく、キツイ。富士山は眺めるもので登るものではないと言われるがその通りだ。計画では8合目の山小屋に午後6時頃到着予定だったが、3時間半遅れて午後9時半に到着した。カレーライス一杯の夕食、そのまま寝袋にもぐりつかの間の爆睡だ。深夜1時に起こされる。「頂上で御来光を見るには1時半に出発しないとダメですよ!」と言われて山小屋を出た。ヘッドランプを点け完全防寒の身支度で登り出したがとにかく人が多い。自由に前へ進めない。岩だらけの道は益々狭く急勾配になってゆく。下を見れば登ってくる人のヘッドランプ、上を見れば頂上に近い人のヘッドランプとそれに照らされる人影が延々とつながっている。空には満天の星、流れ星がみえる。なんとすばらしい光景か。しかし登りが苦しく、本当に苦しく、ゆっくり眺める余裕など・・・無い。

午前5時、登っている人の動きが一斉に止まる、そして皆同じ方向を向いている。御来光の始まりだ。はるか彼方雲海の中にポツンと金色の点が見えたと思ったら雲海の上にどんどん膨らんでゆく。歓声と拍手の中、風景は一瞬にして昼間に変わる。感動的なひと時だ。経験したことが無い苦しいキツイ登山も頂上に立つと登りきった達成感と満足感に変わって清清しい。7人全員が途中落伍者無く登山出来たのは経験あるリーダーが体力や体調に気配りして、ペース配分や休憩のタイミング、高山病防止を適切に指示していたからだと思う。何事もリーダーの役割は重要だ。我々物づくりの会社では一人で仕事をすることは無い。常にリーダーたる者の指示采配と決断の如何によって結果が決まる。頂上で朝食を食べ、お鉢めぐり(噴火口一周)したあと、「富士山頂上浅間大社」に会社の発展継続と家内安全を祈願して下山した。―――――――――また行きたい。

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