第254号 人を残すは上なり

2022-02-28
第254号 人を残すは上なり

writer:菅 沼 稔

 【財を残すは下、事業を残すは中、人を残すは上なり】という言葉がある。あるときテレビで野村克也さんが話されているのを聞いて気になっていたのですが、2年ほど前にお亡くなりになられた際に書店の特設コーナーで購入した指導書の様な本の中にも書かれており感銘を受けました。野村さんといえばご存知の通り元プロ野球選手であり現役時代は数々のタイトルを獲得しており、三冠王も達成している偉大な選手であり現役引退後は監督として4球団を渡り歩きリーグ優勝5回、日本一3回の経歴をもつ偉大な野球人です。この言葉は元々『後藤 新平』という明治から昭和初期にかけて活躍した政治家が残された名言ですが、野村さんが【座右の銘】として大切にしていた言葉だそうです。

 さて、言葉の意味ですが大雑把には【金銭を残す事よりも事業を発展させる事、さらには優秀な人材を育成し後世に残す事の方がはるかに難しく価値がある】という事です。企業活動に於いても利益を生み出し、事業を存続、成長させることは重要ですが、利益を生み出すのも、時代に合わせて事業を変化させていくのも、新しい事業を生み出すのもすべて人が行う事ですから、いかに人材育成が重要なのか解かります。さて、人材育成といっても簡単ではありません。重要性は理解していても多くの企業人がその難しさを痛感しているのではないでしょうか。野村さんは著書の中で教育の理想は「教えない事」と書かれています。プロ野球では分野ごとにコ-チが置かれており、それぞれが専門的に技術指導を行っているのですが、コーチには「なるべく教えるな!」と言い続けてきたそうです。手とり足とり指導し、教えすぎることにより選手は自分で考える事をしなくなり、教えてもらわないと動かない様に習慣づけられてしまう。挙句の果てには『教えてもらっていないから出来ません』となる。必要なのは自分で考える事なのです。何のためにその練習をするのか、課題を克服する為に何が必要なのか。最近では世の中が豊かになり、親や学校、塾などがあれこれかまってくれる為、受け身の人間が増えているのではないでしょうか。

 では、どうすれば自ら考えて物事に取り組めるようになるのか?野村さんは【問いかけ】が大事だと説いています。問いかけに対して選手が自ら考え、自分で答えを出し、そして問題意識が高まると自らコ-チや監督に聞いてくる。選手が自ら教えを請うてくるのは向上心や知識欲が高まっているタイミングなので、そこで教えるのが効果的なのだとか。「結局教えとるやないかぁ~い!」と突っ込んでしまいそうですが、何事もタイミングが重要だという事なのでしょう。

 野村さんといえば『ぼやき』が有名ですが、このぼやきを通して選手に考える切っ掛けをつくる問いかけをし、また自分自身への問いかけもしていた様です。野村さんいわく「ボヤキは理想と現実の差を表現するもの。」、「ボヤキは高いところ(理想)に登ろうとする意欲の変形。」との事。野村さんの教え子たちはこのボヤキをいつもベンチで聞きながら多くの気づきを与えられ、成長を促されてきたのでしょう。そして今や野球界では野村さんの指導を受けて監督として活躍されている方が数多くいます。アマも合わせたらとんでもない数に膨れ上がるでしょう。冒頭の【人を残すは上なり】を見事に成し遂げています。私も曲がりなりにも人を指導しなければならない立場にありますので、野村さんの教育理論を大いにヒントとして自分なりの答えを出し、事に当たっていきたいと思います。 

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