【三和新聞】202号

2017-10-31
第202号 やる気スイッチ
writer: 渡辺 健二

 「早く着替えて!準備して!」と嫁の声が響く渡辺家の朝。この声は我が娘(名前は菜乃)に向かってほぼ毎日放たれています。娘は幼稚園年長で来年からは小学生。そろそろ『自分の事は自分でやる!』という事を学んでほしいものです。しかしマイペースな娘はいつもリビングでゴロゴロするか、ボケーっと座っているだけでなかなか動こうとしません。あまりに動かない娘に対し僕が「菜乃!」と一喝入れると泣き出す始末。こうして父親を無視する娘が出来上がっていく訳です・・・(涙)

 娘の『やる気スイッチ』はどこにあるのでしょうか?そんな日々を過ごす中ある1人の人物が頭に浮かびました。その人物は東京大学・大学院・薬学系研究科の池谷裕二先生です。この先生は薬学系研究科所属なのですが脳科学も研究しているという異色な方です。以前この先生の講演を聞いたことが有り、その講演が非常に興味深いものでしたので皆さんに共有したいと思います。
 
 さて、皆さん!『脳が体に指令を出す』という事を聞いたことはありませんか?この考えは脳科学的には逆に考えられることが多いそうです。『体が動いて脳が判断』だそうです。このことが証明された実験があります。鉛筆を口でくわえながら漫画を読む実験です。鉛筆のくわえ方を『①棒を縦にしてくわえる』『②棒を横にしてくわえる』と2通りで同じ漫画を読みます。そしてどちらのくわえ方が漫画をより面白く感じるか?を調べたのです。この実験でより面白く感じたのは『②棒を横にしてくわえる』でした。横にくわえると口角が上がりますよね。つまり笑った時の顔に近くなり漫画の面白さもアップするという事です。脳が体から得た情報(つまり口角が上がるのは面白い時である)を記憶していて面白いと判断したのです。『笑うから面白い』言い換えると『体が動いて脳が判断』という事が証明された実験でした。

 もうひとつ今度は皆さんへの実験です。今回の挿絵の中に白黒の格子柄の上に緑の円柱が立っている絵があります。その中のAとBの色を比べてください。Aの方が濃く見えますよね。しかしAとBは同じ色なのです。そんなの嘘だ!と思われる方、周りの絵を全て隠してAとBだけを見てください。きっと「おぉー!」と言って納得していただけると思います。何故、このような事が起きるのでしょうか。そもそも人間の目が捉えることができる画素数は約100万画素だそうです。100万画素といったらデジカメが出始めたころじゃないですか!今では携帯電話でも1,000万画素が出ているのに。人間の100万画素の目では世の中のあらゆるものがモザイク状に、またはファミコンのドット絵の様に見えるのが普通です。しかしそこは脳が都合よく修正をかけてくれているため、僕たちはきれいな景色を見ることができるのです。そもそも脳は頭蓋骨に覆われ外の世界のことを何も知らないし自ら動くこともできないので、体や五感を使って(時に第六感を働かせ?)情報を仕入れるしかないのです。そして脳は外から得た情報を自分の都合の良いように解釈してしまう厄介なヤツなのです。

 では『やる気』はどうしたら出るのでしょう?その答えは脳を騙すことにあるようです。池谷先生は講演の中で【やれば、やる気は出る!】と言われました。例えば掃除、面倒くさいなぁと思っていても、いざ始めると夢中になって隅々までやってしまう。こんな経験したことありませんか。体を動かせば脳もその気になるという事です。さて話は娘の事に戻りましょう。池谷先生の理論を使って娘を動かそうと試みました。朝トイレに行くのも面倒くさがる娘は寝室から出てきてリビングでゴロゴロ。そこで僕は娘の両腕を持ち上げ強制的に立たせ、お尻をポンッと軽くたたいてみました。すると・・・なんということでしょう!娘がトイレに向かって歩き出したのです。トイレから戻ってきた娘は、またリビングでゴロゴロ。そこで僕は娘の上着の片腕を強制的に脱がしました。すると実に面白い!自ら着替えを始めたのです。始めの一歩、背中を押してあげるだけで動いてくれるようになったのです。皆さんもやる気が出ないなぁと思うことがあったら、まず一歩を踏み出す努力をしてみてください。『やる気スイッチ』は自ら押すのですよ!

Copyright(c) 2009 SANWA KIKO CO.LTD All Rights Reserved. Design by 三和機工株式会社